WDR 2013 Jobs
大塚啓二郎氏も編集に参加されているWDR 2013 Jobs。
p. 117 (Chap.3) Box 3.4 バングラデシュでの衣料品産業の勃興を解説するコラム。
p. 171 (Chap.5) Fig. 5.10 バングラデシュで、衣料品工場が近くにできると女子の就学率が改善するという素晴らしいグラフ。
p.212 (Chap.6) Box 6.7 メキシコでどうやってインフォーマリティを削減するかについての議論が活発におこなわれているというコラム。
大塚啓二郎『なぜ貧しい国はなくならないのか』(日本経済新聞出版社、2014年)
大塚啓二郎『なぜ貧しい国はなくならないのか』(日本経済新聞出版社、2014年)を速読しました。
第一、大塚先生自身が率直に知らないことは知らないと書かれています。例えば、p.124では、アフリカにおいて『2005年ごろから穀物生産が人口に追いつくようになってきた。直接的な原因は必ずしも明らかではない』と言っています。こういう部分は、後進(の大学院生)がちょっとデータ分析をすると何か示唆が得られるのかもしれません。他にもいくつかそういう箇所がありました。総じて第2章の貧困の議論は大塚節でした。でも、Deaton等で補えばよいので、面白かったです。
第二、大塚先生がpicking the winnerを明確に支持されていることがわかりました。農業については、pp.206-211でコメを選ばれています。製造業についても、cluster-developmentをするにあたって、それぞれの国についてある業種を選んでいることは明白です。この意味で、単にマーケットに任せればよい、単に国それぞれの開発戦略があるべきだという一般的な立場よりも、政策担当者に友好的な処方箋になっていると思います。バングラデシュについてのMottaleb and Sonobe (2011)を読んでみようと思いました。
第三、Picking the winnerをしたうえで、農業と製造業について、それぞれp.211とp.221で発展戦略を明示的に図にして議論されています。そこでは、知的・人的資本→インフラ→物的資本(その前提となる信用の供与)という一般的なパターンが提示されています。順番(sequence)をあまり議論しようとしない既存の議論に比べて、より政策担当者に友好的であると思えます。
私には、ここの論理展開はそれなりに説得的だと思います。例えば、メキシコのインフォーマリティを議論したマッキンゼー研究所のレポートでは、distortionを取り除くことに政策対応は集中しています。そこでは、連邦主義を利用した各州の競争原理を用いた人的資本の向上プログラムは議論されていないようです。私には、そういう大塚流の考え方はより好ましいものです。
http://www.mckinsey.com/insights/americas/a_tale_of_two_mexicos
私は、援助においては「動かないが自ずと向上心のある人」にターゲットをあてるべきだと考えてきましたし、それがグアテマラでの地方テクノクラートへの焦点の背景であったように思います。この視点と大塚先生の視点には類縁性があるように思えます。
第四、政治はまったく範疇外にあります。ですので、大塚先生が考える政治と経済の関係を知ろうとすれば、やはりOtsuka and Shiraishi (2014)を読まないといけないようですね。
第五、私にはよくわからないところがあります。たとえば、p.148のB国の技術進歩が非常に進んだ時に、『A国で相応の進歩がなければ、A国とB国は正面から競争することになる。A国の産業は、以前よりも厳しい競争にさらされ、採算が悪化する。その結果、A国の生活水準は低下する可能性が高い。』というところは、どういうモデルの上で出された結論かはわかりません。例えば、多数財一生産要素のリカーディアン・モデル(ドーンフッシュ=フィッシャー=サミュエルソン)では、相手国が生産する財が全て生産性が上がった時に、自国の実質賃金が上がり、その意味で生活が改善することがわかっています。
第六、p.150の図5-1に関連した議論は、WDR 2013 (Jobs)のChapter 7, Fig. 7-2に関連した議論と同じである。
何を輸出(生産)するか、それとも、どう輸出(生産)するのが大事か?
我々の勉強しているアレンのテキストでは、成長するには工業化が大事だと述べています。それで、最初にイギリス、続いて西ヨーロッパ大陸諸国とアメリカ、さらには日本とロシア、韓国と台湾、現在は中国が成長しているというのです。
このように考えると、工業化=製造業の発展となり、製品を生産(輸出)することがその国の成長にとって大事だという議論につながるかもしれません。しかし、この点については議論があるのです。このポストでは、二つのペーパーを紹介します。
リカルド・ハウスマン、ジェイソン・ウァン、ダニ・ロドリックは"What You Export Matters"というペーパーを2006年に書いて、高生産性をもたらす財を選ぶことが大事であると議論しています。
これに対して、ダニエル・リーダーマンとウィリアム・マロニーは"Does What You Export Matter?"という明らかに上記論文を意識したタイトルの小冊子を2012年に発表しています。かれらの議論は、何を輸出(生産)するかが大事ではなく、ある財をどのように生産(し、輸出)するかが大事だという議論です。なぜそうなのかということが知りたければ、読んでみてください。
両者の議論は異なる政策含意を持ちます。財の選択が大事であれば、高生産性の財を選ぶという焦点を限定した産業政策が有効かもしれませんが、生産の仕方が大事であれば、高等教育などのより広範囲の政策が効果的かもしれません。
Introduction to Development Economics: Reference
Introduction to Development Economics: Reference
Maintext:
Global Economic History: A Very Short Introduction (Very Short Introductions) Robert C. Allen
なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか [単行本] ロバート・C・アレン (著), グローバル経済史研究会 (翻訳)
【翻訳間違いについて】
p.38 l.3 [翻訳] ルイ一六世 → [正しくは] ルイ一四世
p.79 l.15 [翻訳]インドからイギリスへの綿織物製品の輸出は、すでにこうした方向の輸出に必要な資金が枯渇していたために、途絶してしまった。
→[正しくは]インドからイギリスへの綿織物製品の輸出は、この方向ではもはや金儲けをすることができないために、途絶してしまった。
p.80 [翻訳] 図13 綿花の相対価格
→ [正しくは] 図13 綿花の実質価格
p.153 l.2 [翻訳] 経済発展のための目的は → [正しくは] 経済発展という目標は
1) 16 Century to 18 Century
Early Globalization
コロンブスからカストロまで〈1〉―カリブ海域史,1492~1969 (1978年) (岩波現代選書〈6〉) E.ウィリアムズ (著), 川北 稔 (翻訳)
2) 19 Century
2A) General Theory
Induced Innovation
Hicks
Hayami and Ruttan
Acemoglu, Daron. "Directed Technical Change," Review of Economic Studies, 2002, v69(4,241,Oct), 781-809.
ノート(pp.11-12)
賃金が資本のレンタル価格より高い場合には、労働集約的な中間財の価格が高くなり、農業技術への技術革新のインセンティブが大きくなるはずである。これがアセモグルの言う「価格効果」である。中間財の価格ではなく、生産要素価格で表わすと通常の誘発的技術革新になる。いわゆるinduced innovation(希少な生産要素を節約しようとする技術革新)はこちらのはず。これに対して、石炭がたくさんありその結果として資本がたくさんある場合には、技術市場はその技術を使う生産要素によって成り立っているので、技術市場が大きい場合(つまり、資本がたくさんある場合)には、その豊富な生産要素(資本)を使おうとするインセンティブが生まれるはずである。これが「市場サイズ効果」である。
Acemoglu, Daron, Factor Prices and Technical Change: From Induced Innovations to Recent Debates (October 2001). MIT Department of Economics Working Paper No. 01-39.
2B)Standard Model
2Ba) Railway
2Bb) Protectionism
Matsuyama, Kiminori. 1992. Agricultural Productivity, Comparative Advantage, and
Economic Growth. Journal of Economic Theory 58:317–34.
2Bc) Banking
2Bd) Education
3) 20 Century and forward
Big Push
Murphy, K. A. Shleifer, and R. Vishny (1989). “Industrialization and the Big Push,” Journal of Political Economy 97 (Readings in Development Economics: Micro-Theory)
4) Other
Textbook Review:
日本経済新聞 峯
Gary King and Maya Sen, "How Social Science Research Can Improve Teaching"
雑記:開発経済論、構想
例えばDell (2010)で掴もうとしてみる。制度の重要性。次にA & R (2012)。もちろん、経済成長のワークホース・モデルが必要。動学でなくて静学でいい。PowerとProperty rightがあってResource allocationがあればいいか。「七人の侍」モデルにするか。中央集権による武装解除は表現できるはず。Catch-upなら技術進歩は外生でいい。Creative destructionを組み込むなら動学で内生化しないと。武装化しないことを政治的な包摂流経済制度として表していいか。政策含意として社会包摂は持って行きたいが遠いか。
RCTもやる。二例。第一、豆配布で予防注射。別の解釈は、豆配布にcredibilityが見られたこと。第二、インドの診療所での失敗。政治制約。結論として、たとえ成功してもscale up問題あり。しかし、実務をやる人は基礎教養として重要。counter factual thinkingの訓練。
Portfolio of the poorをやってもいいが、財務諸表の重要性を強調することになる。実家への仕送りが貯蓄になることを知るための「フィールドワーク」の重要性と大変さ。
Rodrikをやる。industrial policyの代わりとしての関税と、その代わりとしての為替レート。次善の理論。diagnosticsの実例。
国際貿易、資源の発見、技術進歩、outsourcing。Jonesだったかな。outosoursing論でGrossmanが議論したように、国際貿易が技術進歩と同じだとすると、問題はなくなるが、おそらく違う。一つは政治。ブラジルの「くじ」論、「資源の呪い」論は生産要素で考えること。Helpman and Grossmanで考えるのか。Besleyでもいいけど。
より以前の記事一覧
- 『明後日』 2010.10.10
- たった一人の肩に: 中国の隠れた革命 2010.08.25
- 中国は「ワシントン・コンセンサス」の忠実な信奉者 2010.08.21
- 権威主義成長の謎 2010.08.17
- #183 Planet Money (June 5th, '10) 2010.06.14
- エスター・ダフロー:貧困と闘う社会実験(15分) 2010.05.16
- Esther Duflo wins the John Bates Clark Award 2010.04.24
- 『なぜ発展途上国の実質所得データはこんなに頻繁に改訂されるのか?』 2010.03.26
- Paul Romer: Which Parts of Globalization Matter for Catch-up Growth? 2010.03.22
- アフリカの成長の奇跡 2010.03.07
- 歴史でアセモグル批判をしたかったら、これを読むこと。 2010.03.04
- 所有権がfragileになると、、、。 2009.12.27
- UNDPの人間開発報告2009は「人間の移動」を取り扱っていたのね。 2009.12.27
- 中国の都市化は移民労働者に辛く当たる[FT] 2009.12.26
- 途上国支援、開発援助の質高めよ 研究と事業の連動強化を 2009.12.21
- スブラマニァン、援助の効果は オランダ病 2009.12.18
- 開発経済学における内乱 2009.12.05
- ダロン・アセモグルによる「豊かな経済になるための処方箋」 2009.11.22
- 中村 雄祐『生きるための読み書き――発展途上国のリテラシー問題』 2009.09.27
- 発展途上国における通信事情、特に携帯電話事情。 2009.09.26
- Analogia entre microeconomia y cooperacion internacional 2009.09.15
- Markets, the State and the Dynamics of Inequality 2009.06.26
- ポール・コリアーの新著プロモーション 2009.04.04
- 富裕と倫理 2009.03.05
- 『個人の自由を尊重すると繁栄に繋がる』 2009.03.05
- One Economics, Many Recipesのレビュー 2009.02.27
- アンガス・ディートンの開発経済学レビュー 2009.01.31
- The G20 agenda formulation by Dani Rodrik 2009.01.28
- ウィリアム・イースタリーのブログ 2009.01.27
- 『テクストと人文学』 2009.01.11
- 世界の投票率図 2009.01.09
- 経済を子守りしてみると (Baby-Sitting The Economy) 2008.12.31
- Self-discovery in practice (Dani Rodrik) 2008.12.23
- Development Economics through the Decades 2008.12.19
- A Debate on Labor Markets in Developing Countries 2008.12.19
- Daniel Kaufmann’s Farewell Lecture: Governance, Crisis, and the Longer View: Unorthodox Reflections on the New Reality 2008.12.19
- ポール・コリアーのop-ed 2008.12.12
- Human Security Gateway 2008.11.28
- A new system of development finance 2008.11.28
- The Politics of Hunger (Paul Collier) 2008.11.24
- ソマリア海賊話 2008.11.22
- Somalian Pirate Report 081118 2008.11.21
- Somalian Pirate Report 081119 (in 30 seconds) 2008.11.21
- Trade protection and growth (Dani Rodrik) 2008.11.18
- 人間機会指数 (HUMAN OPPORTUNITY INDEX) 2008.11.14
- Poverty and civil wars 2008.11.14
- [Chinese Economy] If it is true, this is too important to ignore. 2008.11.10
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- Must-read paper 2008.10.22
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- Development Doesn't Require Big Government 2008.10.03
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- The Bottom Billion(『最底辺の10億人』)の書評 2008.08.18
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- Brookings Global Economy and Development Conference 2008.05.30
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- ダニ・ロドリック:開発経済学の再統合 2008.05.25
- BanerjeeのMaking Aid Work 2008.05.02
- Grains Gone Wild 2008.04.08
- My Paper on Guatemala 2008.04.04
- Why have food prices spiked so dramatically? 2008.04.02
- The sting of poverty (Boston Globe) 2008.03.30
- Do Assassinations Change History? 2008.03.30
- Aging and Death under a Dollar a Day 2008.03.30
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- BBC: Hard times at Kenya's desert school 2008.03.15
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