2019中南米大抗議: 感受性の無さが愚行を引き起こした
2019中南米大抗議: 感受性の無さが愚行を引き起こした
2019年秋、中南米の各地域で政治運動が起きている。エクアドルでは市民向けの燃料費補助が打ち切られたことへの暴動やスト、ボリビアでは大統領選挙での現政権への抗議運動、チリでは地下鉄料金値上げに端を発する抗議運動は、暴動に発展し、政府は夜間外出禁止令を出し、百万人をも超えるデモが首都で起きるに至り、ピニェラ大統領は内閣を総辞職させるまでに至った。これを総称して「大抗議」とも呼べるだろう。付け加えるならば、コロンビア・ボゴタ市での市長選挙に女性候補が勝利したことも「大抗議」の一端に加えることができよう。
「大不平等」を書いたブランコ・ミラノビッチ(LSE)は香港やレバノンの運動とまとめて1968年にも匹敵する運動かもと指摘しているが、本稿では中南米地域に枠を限定して、共通要因を考えてみたい。その下敷きとなるのは、Forgotten Continent: A History of the new Latin America (2017増補)を書いた英エコノミスト誌編集者マイケル・リード氏がチリのタ・テルセラ誌に寄せたインタビューである。
リード氏はこれらの抗議運動の中心は中間層であると述べながら、共通要因として三点を指摘する。第一に、各国での所得不平等を背景とした近年の経済不振である。第二に、政治家層での腐敗である。第三にソーシャル・メディアによる情報の拡散と伝染である。経済的な不満と政治家層への不信が、ソーシャル・メディアによる連帯運動に繋がったという診断である。
もう一点、ここでは指摘したい。なぜこのタイミングで大抗議が起きたのかという疑問への答えである。それは、所得不平等を背景とした社会層の分断と、それを背景とした上層の「感受性の欠如(insensitive)」による「愚行(insensatez)」が引き起こしたというのが私の回答である。抗議運動のきっかけはボリビアとコロンビアでの選挙を除けば、中間層にとって重要な燃料(エクアドル)や地下鉄の価格引き上げ(チリ)である。それを強行した社会上層(統治層)の間の「感受性の欠如」が中間層の抗議に火をつけたのである。中間層からすればそれは愚行であり、抗議をする動機になった。
この「感受性の欠如」による「愚行」は、長年の所得不平等を背景とした社会層の亀裂を表している。上層は中間層の痛みを感じることができなくなっているのである。そして、公共料金の引き上げtという愚行に至ったのだ。これはパンが食べれないならお菓子を食べればいいじゃないと言ったとされる「マリ・アントワネット症候群」と言ってもよいかもしれない。統治層である社会上層の蛸壺化がきっかけとなった愚行と言えよう。
注:
アントニオ・カルロス・ジョビンが1963年に出したInsesatez(愚行)のポルトガル語歌詞はヴィシニウス・ダ・モラエスであったが、英語化される時にノーマン・ジンベルがHow insensitive(感受性の無さ)として英語歌詞をつけた。そのことによって、「愚行」の歌詞が「感受性の無さ」に置き換えられたのである。
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