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【本日の絶句】『ハーバード大のセン教授、市場経済の価値不変、民主主義は統治の最善策。2012/02/07 日本経済新聞』の巻

 日本経済新聞編集委員・加賀谷和樹が厚生経済学の碩学・アマルティア・セン氏にインタビューした。絶句したのは、最後の加賀屋のコメントだ。

 『教授はかつて市場経済が地球規模で広がるグローバル化が「生活条件の大きな進歩につながる」と述べた。一方、これが必ずしも貧困者の利益につながらない現状を率直に認めている。インタビューでは経済格差を是正する有効な手段に触れなかった。民主主義と市場経済に代わるシステムがみえない限り、貧困という不正義の解消策は大きな課題として残る。』

 「民主主義と市場経済に代わるシステム」を求めたいのは加賀屋の意見だろうが、この前提として、加賀屋はそういうシステムを構想しなければならないという先験的発想に立っていることになる。この先験的態度は、近著『正義のアイデア』でロールズの先験アプローチに対して、アダム・スミス以来の比較アプローチを主張したセン氏の意見と真っ向から対立する。セン氏とインタビューした後にこういうコメントを書きつけているということは、加賀屋はセン氏の著作を真正面から読んでいないことを意味する。これは絶句ものということで『本日の絶句』になりました。

 なお加賀屋は2012/01/08には国際協力機構理事長緒方貞子氏を相手に『発想の転換迫る世界激動』というインタビューも行っているので、「発想の転換」が好きなのかもしれない。彼は、2011/04/13には【ドバイ=加賀谷和樹】という署名で、『リビア反体制派、承認拡大狙う、ドーハ会合出席へ』という記事も書いており、日本に戻ってくるまではドバイにいたようだ。

 簡単に検索してみると、80年代末にはどうも大阪でマーケットを見ていたようだ。その後90年代後半にはインドネシア・ジャカルタに駐在し、アジア通貨危機に遭遇している。2000年代当初には経済解説部で『エコノ探偵団』を担当、その後、バーレーンでイラク戦争を見聞し、そしてドバイへという道のりだ。つまり、石油市場、通貨危機、そして民主国家がおこなう現代戦争を目の当たりにした記者ということになる。これだけ「恵まれた経験」をしているのに、こういうコメントをなさるとは極めて残念だ。是非ともこの機会にセン氏の名著『正義のアイデア』を読んで欲しい。本の目利きによる評価はこれ。簡単な紹介はこれこれ。訳者の思いはこれこれ。London Review of Booksの書評はこれ。New York Review of Booksの書評はこれ

ハーバード大のセン教授、市場経済の価値不変、民主主義は統治の最善策。2012/02/07  日本経済新聞 朝刊  6ページ

 ノーベル経済学賞の受賞者で分配や公正の研究で知られる米ハーバード大学のアマルティア・セン教授(78)は都内で日本経済新聞記者と会い、欧州債務危機で揺らぐ世界経済について「民主主義を基盤とした市場経済の価値は損なわれていない」と指摘した。教授は都内のホテルで6日から7日まで開く国際会議「世界文明フォーラム2012」の総合議長として来日した。主な一問一答は次の通り。

 ――経済混乱を巡る欧州の意思決定は遅い。

 「民主主義は最善の統治手法だが、枠組みにすぎない。どう活用するかは私たちにかかっている。欧州共通通貨ユーロが売られる悲劇の背景には、参加国の財政や政策を統一しないまま誕生した中途半端さがある。さらに大国ドイツが経済再建策として緊縮財政導入を唱え、混乱に拍車をかけている。域内の合意を求める民主的な仕組みが問題なのではない」

 ――各地で昨年、相次いだ政府への抗議活動は市場経済のひずみでは。

 「アラブ諸国の反政府運動、米金融街ウォールストリートに対するデモなどの背景に共通するのは経済格差のような不正義に対する怒りと、技術革新による素早い情報伝達だ。不正義を非難する声が国境を越え瞬時に伝わるというのが現実だ」

 ――ロシアや中国の「国家資本主義」が成功しているようにみえる。

 「経済成長が政治システムに左右されるという見方には同意しない。同時にインド、ブラジルのような民主主義国も新興国としてめざましく成長し始めた。これまで米欧を軸に構築されてきた資本主義の市場経済の価値は損なわれていない。そこに民主的なシステムが存在することで、市場原理が注意を払わない大気汚染、地球温暖化といった課題も改善される」

 「必要なのは市場と公的セクターの役割をうまく融合することだ。例えば、市場が関知しない基礎的な教育、健康医療サービスなどは政府が提供しなければならない。市場を安定させるためには金融機関の活動に一定の制限を加えることも考えるべきだろう。何でも市場原理で自律的に回復するわけではない」

 ――先進国経済が行き詰まったのではないか。

 「そんなことはない。日米欧は多額の債務を抱えているが、高い生活水準を維持する。経済が成熟し、伸びる余地が小さいという議論は成り立たない。重要なのはどのような産業をこれから育てていくかだ。仮に日本の政治家や企業経営者が東日本大震災、長引く円高などで自信を失っているとすれば、それが一番の問題だと考える」

 教授はかつて市場経済が地球規模で広がるグローバル化が「生活条件の大きな進歩につながる」と述べた。一方、これが必ずしも貧困者の利益につながらない現状を率直に認めている。インタビューでは経済格差を是正する有効な手段に触れなかった。民主主義と市場経済に代わるシステムがみえない限り、貧困という不正義の解消策は大きな課題として残る。

(編集委員 加賀谷和樹)

 Amartya SEN なるべく多くの人々が満足する分配の仕組みなどを研究する厚生経済学への貢献で1998年のノーベル経済学賞をアジア人として初めて受賞した。倫理学、哲学、政治学などにも影響を与える。著書は「自由と経済開発」「正義のアイデア」など多数。33年インド生まれ。

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