« 2011年度新卒採用「不明」36%に急増 | Main | 今日は月曜日。 »

途上国支援、開発援助の質高めよ 研究と事業の連動強化を

『途上国支援、開発援助の質高めよ 研究と事業の連動強化を』黒崎卓・澤田康幸、日経2009年12月21日朝刊17面。

『こうした研究成果を踏まえて他の先進国が条件つき所得移転に対する支援を増加させている一方で、日本は理由も示さないままに消極的である。』

 政治学者や行政学者にその理由を解明してもらいましょう。本op-edには基本姿勢としては賛成である。ただ、いくつか留意事項がある。

 まず、CCTによる科学的に推計された効果は、何と比べて行われているかを押さえる必要がある。たしかに、メキシコでのCCTはそれをしなかった場所(control)に比べて、教育の量に統計的有意なプラスの効果があった。しかし、教育への政策としてはCCTより効率的な政策はあるかもしれない(例えば、バウチャーなど)。すなわち、CCTが重要なのは、必ずしもcontrol地域に比べて教育が増大したということではなく、貧困への支援という所得移転がまさしく貧困層に行われているという点である。ここで、比べられている対象はメキシコにおいてCCT以前に大規模に行われていた、demand-drivenの小プロジェクト群支援プログラムおよび基礎食料への補助金プログラムである。これらの支援がnation-wideに行われているときには、CCTへの変更は貧困層へのターゲッティング+教育などへの副次効果において有益であろう。しかし、これらはそれぞれの国の国家計画であり、先進国の支援とは別物である(もちろん、policy dialogueなどでは間接的に推進できるであろう)。もちろん、アフリカなどにおいて、NGOや先進国ドナーによる貧困層支援が貧困削減プログラムとして重要な場合には、多くのプログラムをCCTに置き換える可能性はあろう(op-edはそういう点を暗黙に指摘しているのかもしれない)。しかし、この場合も、一方で計算コストの著しい削減を考えながら、他方で政治・行政へCCTが及ぼす過大な負担を考慮する必要がある。下手をすれば、統制国家を作り上げかねない。結局、国全体での貧困削減プログラムとしてのCCT(メキシコ、フィリピン、ブラジルの事例)と、プロジェクト単位でのRE(もしくはRCT)のようなCCT(アフリカの事例)とははっきり区別する必要がある。つまり、メキシコやフィリピンやブラジルで国レベルで進んでいるからこそ、アフリカではより区別して考える必要があろう。つまり、贈与・技術援助機関の支援の大半がアフリカである場合には、CCTをやれとナイーブに言うことにはリスクがあるはずだ。

 一般には、小プロジェクトでRE or RCTを行うときにはscale up and/or replicabilityの問題がある。この点については、What Works in Developmentを参照されたい。ということで、小プロジェクトでしか考えない場合にはRE or RCTはOKなので、小プロジェクトばかりやっている日本の贈与・技術援助機関にとってはRE or RCT化は当面OKだが、それ以外のnation-wide支援についてはもう少しよく考える必要が「科学的」にあるだろう。要は、禿山に植林をするときに盆栽を作るのなら、変な暗黙知に支えられた職人芸の盆栽より、科学的に作れることがわかっている盆栽を作ればいいのだが、大規模植林を考えるのなら、盆栽の発想だけではダメなのだろうということだ。

 ただし、追加的に、小プロジェクト単位ではCCTに追随する必要は出てくるかもしれない。その理由として、おそらく、理論的に日本の援助主体が考慮しなければならないのは、CCTがその地域の他のプロジェクトに及ぼす負の外部効果であろう。CCTはより厳密なターゲッティングを行うことが知られている(もちろん、抜け穴は常に存在する)。とすると、当該地域で緩やかな"demand-driven" projectを行っている場合には、より腐敗やターゲッティングの誤りが強く表れる可能性がある。つまり、CCTはSuperfreakonomics風に言えば、自動車盗難についてハンドルを固定する器具のようなものであり、ラジオによる盗難車追跡システムではないことが考えられる。

 最後に、RE or RCTが行われる場合、そのハンドリングはかなりの知識を必要とするので、担当者は短期的には非現地層であることが考えられる。これは、先進国の開発支援者を目指す人々には労働需要なので朗報であろう。しかし、現地人による現地人の開発は短期的にはやや遠のく可能性がある。

|

« 2011年度新卒採用「不明」36%に急増 | Main | 今日は月曜日。 »

【開発経済論】」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« 2011年度新卒採用「不明」36%に急増 | Main | 今日は月曜日。 »