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中村 雄祐『生きるための読み書き――発展途上国のリテラシー問題』

41civ2vapl_sl500_aa240_ 中村 雄祐『生きるための読み書き――発展途上国のリテラシー問題』(みすず書房、2009年)
 本書は、第Ⅰ部「読み書きと社会の発展」で、読み書きの重要性と、読み書きを従来分析してきたリテラシー・アプローチの射程の狭さを描き出すところから始まる。となれば、第Ⅱ部「文書と人間の歴史」は、読み書きに関わる諸事をより広いまな板に載せる作業になる。いわば、仕切り直しをすることによって読み書きを根本的に捉えなおすことになる。第Ⅲ部は、そうした広いまな板の上でボリビアの編み物教室を事例とした「途上国の読み書き問題」を考えている。実証の第Ⅲ部に対して、本稿では理論の第Ⅱ部を取り上げる。
 第Ⅱ部にはいくつか鍵となる言葉/文/表現が出てくる。例えば、『「良い場所」に生まれる』というハーバート・サイモンの名著からの引用であり、『「個人が上手に文書を使いながら暮らしていくこと」と「社会が文書を介してうまくまわっていくこと」は、同じ出来事の両面をなしている』という文であり、文書は「心の道具」であるという表現である。この三つの鍵表現を、読者それぞれが自ずと生きる文脈の中で位置づけることがそれなりに適度にできれば、本書を読んで得ることはとても大きいと言えよう。この三つの表現を統合して自分の文脈の中で検討することは今後の課題とし、本稿では別々に検討する。
 第一に、『「良い場所」に生まれる』ことは、経済学の中の移民研究では、移民が先進国(例えば、米国)に移動すると労働生産性が上がるという「典型的な事実」発見と関わっていると思う。すなわち、「良い場所」に生まれることが、ある特権的な影響を生むとすれば、「良い場所」に移動することも何らかの影響を与えることが期待できる。そのことが、生産性上昇に繋がるとおおまかに考えることができる。すなわち、サイモン=中村流の視点から、移民研究を見直す必要があるだろう。
 第二、『「個人が上手に文書を使いながら暮らしていくこと」と「社会が文書を介してうまくまわっていくこと」は、同じ出来事の両面をなしている』という文は、範囲としてのミクロとマクロのレンズの入れ替えを全ての研究者/実践者に要求していると思われる。新しい道具(例、IT)を導入したときに、道具の新奇さ、卓抜さに目をとらわれ、社会が本当にまわっていくのかという視点から検討しない限り、道具の導入はうまく行かないということだろう。この点で興味深いのは、20世紀初頭の電気の導入である。電気の生産性への向上には時間がかかったことが知られており、それは20世紀末から21世紀初頭のITや、今後の環境技術についても示唆を与えていることはしばしば指摘されている。おそらく、読み書きの道具の導入は、その古典的な例として考えることができよう。とはいえ、新技術への闇雲の悲観主義の必要もない。
 第三に、文書は「心の道具」であるという表現を踏まえながら、広義のknowledge engineeringを構想するのが面白いのではないだろうか。knowledge engineeringとは通常、人工知能をどのように作っていくかについての研究方法と理解されている。しかし、脳神経の作用が徐々に明らかになるにつれて、人工知能だけでなく、人間の文書活動総体について、上意下達組織を前提としたknowledge management流の考え方だけなく、全体をまとめて考えるknowledge engineering流の考え方も必要となっていくと思われる。経済史をそのような実験例として考えることは一つの課題となろう。

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