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Larry Bartels, Unequal Democracy: The Political Economy of the New Gilded Ageをざっと読む

41vvfsj5xzl_sl500_bo2204203200_pisi  Larry Bartels, Unequal Democracy: The Political Economy of the New Gilded Age (Princeton: 2008).
 洛陽の紙価を上げるほどのバーテルスの本。想定できる購入者層は次の三つ。第一に、真の政治学者は、APSRやAJPSなどのprofessional journalsに発表されたバーテルスの論文を読んでいるので、本書はもちろん買うが案外は積読になっていて大学院のゼミでゼミ生に読ませるかなどと思うもの。第二に、本を買ってざっとでも読むのは、隣接領域の研究者(income distributionに関心のある経済学徒とか、political economist、社会学者)と良心と時間の余裕を持ったintellectualsのごくわずかだけ。第三に、金があれば本は買うが、本を読まないでバーテルスの書いた関連op-edや、書評や寸評で判断するのが、多くのpublic intellectualsというのが相場。私は第二層なので、ざっと読んだ。
 本書はBartelsの90年代後半、特に00年代の専門雑誌に掲載された業績を本にしてまとめたものである。ですので、テクニカルな批評・批判を真面目にするためには該当する雑誌論文を読まないといけないことになる。そういう作業は当面は時間が無いのでおいておいて、ざっとした印象批評をmemo to selfとして書き留めておくことにする。また、以下に書くことはちゃんとした書評でもない。それは、真の政治学者がperspectiveをもってやるべき作業であるからだ。だから、もし万一、大学院生が「アメリカの政治」や「比較政治学」や「政治経済学」などの授業でこの本の紹介と批判を担当することになったとして、以下に書くことを絶対に参考にしてはいけない。そういうプロの作業は、もっと真っ当にやらなければいけません(えっ、どうやれって?そりゃ、貴方の師匠に教えてもらえばいいでしょう?そのために学費を払っているんだよね、ハハハ)。つまり、甘ちゃんのアマチュアの印象批評であることをお断りしておく。すいません。
 本書は、政治学、とくに比較政治学の専門家にとってmust-read bookであるだけでなく、political economy、所得分配や社会政策に関心のある経済学者や社会学者にもmust-read bookである。なぜなら、本書の主張は、世界で最大のGDP(世界の4分の1)をもち、民主主義の代表国である米国におけるここ20年の民主主義の実態をしめしているからだ。暗黙にも明示的にも、民主主義の模範として考えられやすい米国の民主主義を検討しておくことは一般的に民主主義を検討する上で、そして民主主義を良いと考えてそれを広める作業(いわゆる援助や国際協力におけるガバナンス支援は広義においてこれと重複するところが多い)に関わる上でも重要だからだ。なお、本書の結論をつまみぐいして、結局のところ「民主主義ってこんなもの」と表面的にシニカルになってはいけない。なぜなら、チャーチルが議会演説で言った「Democracy is the worst form of government, except for all those other forms that have been tried from time to time.」というのが民主主義の現実だからだ。これはシニシズムというより冷徹なリアリズムだと解釈すべきだろう。バーテルスもシニカルになっていない。そのことが本書が大統領選挙年に発表されていることからもわかる。ちなみに、オバマが民主党の候補になりそうなこととは微妙にイロニカルである(これは一つのエッセイの題材になるが省略)。So, let's be realistic!
 いろいろ御託を並べたが、本書の発見は大きく二つ。第一に、米国のここ60年の所得分配の変化は共和党・民主党のどの政党が大統領を取るかで大きく影響される。共和党大統領の下では所得分配拡大、民主党の元では拡大せず。第二に、議会の決議を議員の投票行動で見ると、金持ちの意見が反映されていて貧乏人の意見は反映されていない。この意味で、米国の政体は、oligarchyと言わずともunequal democracyと名づけられる。この二つの発見を、ミクロレベルの所得分配データ、選挙データ、そして、世論調査データでしっかりと示している研究である。
 私が考える本書の意義は三つある。第一に、政治学の最新かつ良質の研究をまざまざと見せてくれているということ。第二に、隣接領域の研究者に、所得分配への政治要因をはっきり示した点。第三に、ミクロの政治行動研究へのインプリケーションが非常に強いという点である。もう少し説明しよう。
 第一に、アメリカ政治学はこの20年、経済学の影響を受けて、モデル主義、データ主義が進んでいる。Bartelsもformalな数学での行動モデルを構築しているわけではないが(専門論文は未見)、仮説が明確になり、それを統計で検定するという社会科学の王道が行なわれている。そして、民主主義と平等(経済面で言えば所得分配)を考えるにあたって、経済データ、選挙データ、そして世論調査データを組み合わせ、選挙民レベルでの行動を統計的に考えるという理想的な研究スタイルを示している。比較政治学において、世論調査データだけで民主主義の質とか程度とかを議論し、一国レベルでの集計データで議論する研究(中南米で言えばlatinobarometerとか)は、研究の質において、second rateなのである。もちろん、無いよりはあったほうがいいが、どうしたって研究の質は重要なのだ。
 第二に、経済学者、国際貿易や技術進歩のあり方が所得分配に影響してきたとして、そのどちらが強く影響してきたかを論じてきた。今でもその議論は続いている(例えば、BPEAの最新のKrugmanのpaper)。しかし、あらためて、所得分配への政治要因の重要性をこれほど強く示した研究はないだろう。It pales economists.とくに、p.33のFigure 2.1である(第二章)。サンプルは58であり、内訳は民主党大統領が26年、共和党大統領が32年である。共和党の大統領下において金持ちの所得がより伸びることが明確に示されている。Atkinson (pp.26-27)はすでに指摘しているが、経済学者もより政治要因を考慮しなければならないであろう。
 第三に、ミクロの政治行動が強く意識されていることが重要である。このことを理解するために、Bartelsが指摘する「なぜ共和党大統領が所得不平等を拡大させるのに当選できるのか」についての説明を追ってみよう。Bartelsはまず、選挙民が所得平等に関心を持っていないかを検討する。しかし、選挙民は所得平等に関心を持っていることを示されたので、この仮説は棄却される(第三章)。そこで、Bartelsが出した説明は三つである(第四章)。一つ目は、選挙民は経済に敏感だが、myopicなので最終年の経済に特に敏感であり、四年間全体を見ないというのである。民主党大統領は経済平等に関心をもち、経済刺激をするがゆえに、その効果は第二年目にでてきしてまい、四年目にはガス切れしてしまうというのである。共和党大統領は、インフレを抑えるために経済を二年目に冷え込ませ、逆に第四年目には余裕ができて、経済もそれなりに活性化できるというメカニズムを指摘している。
 二つ目の理由は、貧困層こそが、富裕層の所得向上に選挙で反応してしまうというのである。つまり、貧しいAさん、富裕なBさんの所得が上がるとその政党に一票入れてしまうというのである。Bartelsはこれをclass biasと指摘している。
この発見はBartelsの最大のものだと思う。ただし、メカニズムについては、経済実験も含めて、心理学・社会学・政治学・経済学を動員して解明する必要があると思う。なぜ、隣接領域を総動員すべきかは経済インセンティブ外の行動だからだというのが暫定的な理由。私は、これはtrick down fallacyだと思う。Albert O. Hirschmanが指摘したtunnel effectを考えると簡単にわかるが、片側二車線の長 いトンネルのなかで渋滞が起きているとする。横の車線が動き出したら、まだ自分の車線が動かなくても「あぁ、俺の車線も動くんじゃないか」と期待してしま う。これが私の言うtrick down fallacyである。つまり、富裕なBさんの所得向上を見て、貧困なAさんは俺の所得もすぐに上がるんじゃないかと期待してしまうのであろう。
 三つ目の理由は、富裕層はお金を政治家に寄付するので、これが富裕層の選挙においての力になるという。これについては、選挙資金と選挙当選の相関と因果の問題があるので、もう少し考える必要があると思う。

More data and more detailed analysis will be necessary to confirm the patterns established here and to clear up significant remaining uncertainties --- perhaps most importantly, providing a clearer account of the peculiar sensitivity of voters to the economic fortunes of families at the top of the income distribution. (p.125)

第五章はアメリカ人は平等に関心を持っていることを世論調査で示して、第六章から第八章まで事例研究である(減税、相続税廃止、最低賃金)。
 第九章は、本書の二個目の発見、すなわち議会を見ても、金持ちのご意見が上院議員の投票行動に反映されるという実証研究である。金持ちは投票をよりする、知識もある、政治家とのコンタクトもあるという部分を差し引いても、やはり富裕層のご意見が上院議員の投票行動に反映されてしまうという発見である。これも凄い発見である。私は、貧困層・中間層・富裕層がどういう世論調査でどういうご意見を持っているのかについてのdescriptive statisticsをもう少し見るべきだと思う。ひょっとして貧困層はあんまりはっきりした意見表明をしていないとすると、相関が悪くなるのではないだろうか。このところは、もっともっと丁寧に見ると面白いことがわかるような気がする。第十章はまとめであり、カトリーナ・ハリケーンの事例をエピソードとして使いながら、米国の政体はUnequal democracyだと看破している。
 最後に投票行動についての暫定的なspeculationを一言。投票行動は経済インセンティブからは非合理的であることが経済学的に証明されており、社会インセンティブ(つまり、投票所に行かないと他人の目が気になる、集会で話しに加われない)や道徳インセンティブ(自分の目が気になる、つまり、選挙権を持った自分の権利を行使するところに自分への尊厳をもつ)が発揮されているのだと思う。このような社会インセンティブ・道徳インセンティブによって行動が行なわれる場合にmyopic behaviorが観察されやすいのだと考える。そして、この局面においてjudgement formationに対しての社会(誰とどんな話をしているか)およびマスメディアの役割が大きいのだろう。
このメカニズムの解明については、経済実験も含めて、心理学・社会学・政治学・経済学を動員して分析する必要があると思う。

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