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就活選考はなぜ四回か、type 1 errorとtype 2 errorはなぜ大事か、世の中の「不条理さ」とストレス耐性

 本ポストでは、次の五点を結論とする。第一に、それなりに確からしそうな前提の下で、就職活動の選考プロセスはなぜ総計で四回程度かを明らかにする。第二に、この考え方が正しいとすれば、就職活動においては、落ちる辛さに耐えられるストレス耐性が徹底的に大事であることを明らかにする。第三に、前提の確からしさを検討することで、80%という数字の大切さを議論する。第四に、統計学で議論する「第一種の過誤」と「第二種の過誤」が頭の体操、そして自分の優しさを保つために重要であることを議論する。

 就職活動の選考プロセスを簡単に示したおもちゃを考えながら選考プロセスが四回程度であることを明らかにする。キラン・スリニヴァス『外資系企業がほしがる脳ミソ』(ダイヤモンド社、2007年、p.29)の問題47を使おう(参考文献に示した他の本でもよい)。

 ある会社の人事採用チームは、彼らが面接をする学生のうち、本当に能力がある人材は10%しかいないということを認識している。また、彼らは、学生の能力の有無を自分たちが正しく見分けられる確率が80%であることも認識している(つまり、彼らは80%の確率で、本当に能力がある学生を「能力あり」と判断し、実際に能力がない学生を「能力なし」と判断できる)。彼らは、自分たちが「能力あり」と判断した学生を全員採用するものとする。

 このとき、彼らが採用する学生のうち、本当に能力がある学生の割合は何%になるか?

 答えは、百人の学生を想定し、10人の「本当に能力がある人々」と90人の「能力が無い人々」について、どう採用がなされるかについて場合分けをしながら考えていけば、簡単に答えがでる。正解は、30.8%である。これはひどい結果である。採用した人材のうち3割しか能力がないのだ。これでは、採用は大失敗である(もちろん、別の考え方もあるが、そういう思考を意識的に日本の人事部が採っているとは思えない)。

 では、人事採用チームはどうするか?もちろん、一回の選考プロセスでは駄目だと判断する。つまり、以下のような問題を考えてみよう。

 ある会社の人事採用チームは、彼らが第一回選考をする学生のうち、当社に必要な能力がある人材は10%しかいないということを認識している。また、彼らは、学生の能力の有無を自分たちが正しく見分けられる確率が80%であることも認識している(つまり、彼らは80%の確率で、当社に必要な能力がある学生を「能力あり」と判断し、実際に能力がない学生を「能力なし」と判断できる)。彼らは、自分たちが「能力あり」と判断した学生を全員通過させるものとする。

 最初に応募してきた学生が千人であったとする。このとき、彼らが採用する学生のうち、当社に必要な能力がない学生を一人に押さえ込むまでには何回選考をすればよいか?

 答えは選考プロセスは四回必要である。もちろん、実際には学生が途中で辞退をしたりすることもあろう。しかし、辞退がないであろうトップ企業においても四回程度は採用プロセスがあることの裏にはこのような判断があると考えてもおかしくない。企業も一人ぐらいはとんでもない奴がいても仕方がないとは思っていると想像してもよいだろう。最近の就職活動で言われる「量も質も」と言った言葉の裏側はこういうことなのだろう。

 次に、上記のような選考プロセスが働いているとして、裏側で働いた厳然とした結果を直視しよう。千人のうち「当社に必要な能力がある」人は百人いる。しかし、この四回の選考プロセスを通過した「当社に必要な能力がある」人々は約40人である。つまり、「当社に必要な能力がありながら落ちてしまった人々」が60人程度いることになる。第一回目で20人落ち、第二回目で16人、第三回目で14人程度、第四回目でも10人落ちる。採用者の質を確保するためには、「質がありながら落ちる」人々もかなり出さざるをえないのである。

 このような「量も質も」といった会社の採用スタイルに対しては、就活をする学生に求められる態度には、落ちても挫けないというストレス耐性が求められる。「能力があっても6割が落ちる」のが就活である。落ちたからといって引きこもってはいけない、ある程度の量の会社を受ける、連戦連敗に挫けないことが精神論ではなく理解できるはずである。

 会社はもう少し人物判断ができるのではないかと考える人もいるかもしれない。さて、8割で人物判断ができる能力というのはどのくらい当てにできることかということである。気象庁の天気予報で翌日の雨の予報が的中した確率が83%程度らしい。天気予報が基にする膨大な情報と、エントリー・シートでわかる多少の情報を比べると、8割でわかるというのはさほどおかしくないだろうと思う。そうすると、「能力があっても落ちる」人々が6割という不条理な結果が出てきてしまう。世の中ってこんなものなのだ。

 では、どう対応するか。統計学を「意味ある形で」勉強したことのある人々には当然のことだが、以上の議論は「第一種の過誤(type 1 error)」と「第二種の過誤(type 2 error)」に関わっている。「正しいことを否認する」のが第一種の過誤、「誤ったことを承認する」のが第二種の過誤なのだ。世の中はこういうカラクリでなんとかできていることを理解すると多少は落ち着く(そして、人に優しくなれる)のではないだろうか。学問とは世の中での距離感をもつためにもする意義がある。

 経済史家であるロバート・ハイルブローナーはアダム・スミスにふれてこう述べている。

私利を追求する生き物である人間が、利己心を棚上げしたような、もしくはそれがずっと高度な水準に変質したような道徳的判断を下しうるといったことが、いったいいかにして生じるのだろうか。その解答は、自らを第三者―公平な観察者―の立場に置き、そうすることによってある事柄の客観的な(利己的に対する意味での)真価にかんする同情的な観念を形成するという、われわれ自身の能力にあるとスミスは主張した。(『入門経済思想史 世俗の思想家たち』ちくま学芸文庫 p.74)

 ベスト・セラーである『ヤバい経済学』において、レヴィット=ダブナーは上記の部分を利用して以下のように述べた。英語のまま書いておこう。

  Smith's true subject was the friction between individual desire and societal norms.  The economic historian Robert Heilbroner, writing in The Worldly Philosophers, wondered how Smith was able to separate the doings of man, a creature of self-interest, from the greater moral plane in which man operated.  "Smith held that the answer lay in our ability to put ourselves in the position of a third person, an impartial observer," Heilbroner wrote, "and in this way to form a notion of the objective ... merits of a case."

  Consider yourself, then, in the company of a third person --- or, if you will, a pair of third people --- eager to explore the objective mertis of interesting cases.  These explorations generally begin with the asking of a simple unasked question.  Such as: what do schoolteachers and sumo wrestlers have in common?

 私もだいたいそのような気がする。

【参考文献】宮川公男『統計学でリスクと向き合う』東洋経済新報社、2007年。

吉本佳生『金融機関のカモにならない!おカネの練習問題』光文社、2007年、pp.67-71。

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Posted by: free music downloads online no sign up | 2015.02.28 at 01:17 AM

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