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The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable

41tf4h15vel_bo2204203200_pisitbdp50  Fooled By Randomnessで有名になったNassim Nicholas Talebによる2007年の作品、The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable。366ページの大著であり、虚構の物語も含んでおり、中身はサミュエルソンに代表される新古典派、マートンに代表される現代ファイナンスを含む経済学への批判が内在的に縦横無尽に展開されているので(人文的な経済学嫌いでは全くない)、おそらく誰も翻訳しないでしょう。こういう本を訳すぐらい好きな人は訳す能力が無いか、3年ぐらい翻訳に時間がかかるだろうし、ファイナンスの大学院生を総動員でき、監訳ができるファイナンスの先生は、この本をこっそりパラパラ読んで、その結果として真面目には扱わないだろうからです。例えば、p.282の注には、マートンから著者に「憤怒と恐喝に満ちた7頁の手紙」が来たと書いてありますから、ファイナンス業界の人は誰も訳さないでしょうね(ちなみに、p.304には著者はマートンやサミュエルソンなどの大御所をよく読んだと書いてます)。そして、チャーティスト(罫線引いて株価について御託宣する人)は読まないでしょ。ということで、読みたい人は英語で読むしかない。
 著者が好きなのは、カーネマン、ハイエク、マンデルブロー、ポパー、そんなところかな。キーワードとしては、scalability、confirmation bias, narrative fallacy, silent evidence, ludic fallacy、そんなところかな。
 scalabilityって、あくせく働かないと稼げない(医者とかフリーターとか)の反対。一攫千金ってやつ。confirmation biasは否定する仮説を継続して編み出すのが辛いってこと、懐疑的であるのはとってもタフなこと。narrative fallacyとは、継続した事実について何らかの理由(論理)でつなげてしまう我々の傾向(話をつくってしまうってこと)。silent evidenceとは、(またの名をselection biasとも言うでしょうが)あることの真偽を判断するために証拠を集めるときに、すぐに使える証拠自体が偏っていること(例えば、船の沈没で助かった人が「神に祈ったから助かった」と証言したとするが、神に祈っても助からなかった人はそういう証言ができない)。ludic fallacyとは、授業で習うような「純潔な真実」は世の中にはあんまりないってこと。
 「根拠なき熱狂」で有名なRobert Shillerからは、無意味な部分と不必要に攻撃的な部分をカットしろと言われただけなのが示唆に富んだ(informational)になったと書いている。だから、Robert Shillerが好きな人は読んだほうがいいかも。

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Economics」カテゴリの記事

Comments

6月に資格の試験があるので勉強しなくてはいけませんが、早速オーダーしました。来月3週間出張で日本にいるので、またお目にかかりたく。

Posted by: SM in Chicago | 2008.01.16 at 10:59 AM

SM in Chicagoさん、12月は魚三昧で楽しかったですね。お勧めいただいたRandommnessに比べると冗長ですけど、Talebさん、書きたいことを書ききったという感じです。是非、飯たべましょう。ではでは。

Posted by: ひさまつ | 2008.01.16 at 07:47 PM

オレがどれに該当するかはわからないですが、やるよ。fooled by randomnessを出したばかりなのでちょっと間をおくけど来年の前半には日本語版を出します。それに、だいたい誰が嫌いだろうがこういうベストセラーを誰もやらないと思うほうがどうかしてると思うな。経済的インセンティヴは偉大なのです。

Posted by: Mamoru Mochizuki | 2008.02.12 at 07:41 PM

Mamoru Mochizuki様、コメント有難うございます。『ヤバい経済学』翻訳、とても有難かったです。この場を借りて翻訳者にお礼を申し上げます。「経済的インセンティヴは偉大」ということですが、つまり、儲かる翻訳だという意味でしょうか?もし間違っていたらご訂正ください。よろしく。ではでは。

Posted by: ひさまつ | 2008.02.12 at 08:28 PM

> 儲かる翻訳
無論。オレの場合完全に趣味ですが、日本の出版社がNYTimesでのランキングを見て(普通見ている)、目をつけないはずもなく、出版社が版権を取れば、好き嫌いや趣味ではなく英語を日本語にするのが生業の人に発注するだけで日本語版ぐらいすぐに出る。オレは個人的に一人も存じ上げませんが、たくさんいるらしいですよ、翻訳やりたい人。

ま、だからといって売れると限ったものではなく、日本語がいい日本語であると限ったものでもなく、さらに正しく翻訳されているとも限らなかったりはするわけですけれど。

金融業界で仕事をしているオレは好きであーいうことをやっているので、とくにこの本(とかFooled by RandomnessとかFreakonomicsとか)の場合、売れるかよりもやりたいようにやったかが大事。かりにアメリカでああいう売れ方をしていなくても、企画書書いたでしょうな。

と、いうわけで、金融業界も(たぶん)学術業界も翻訳業界も、喜んでやる人はたくさんいると思いますね。今回はたまたまオレがやらせてもらうことに。

Posted by: Mamoru Mochizuki | 2008.02.13 at 01:10 PM

Mamoru Mochizuki様、丁寧なコメントを有難うございました。合点がいきました。まだ「まぐれ」の翻訳は未見ですが、「ヤバい経済学」の翻訳、これは好きでやった人の翻訳に違いないと思っていたわけです。去年度、Instructor's Manualと併せて教科書として使いましたので、高い翻訳の質に感服していました(250冊ぐらい売りましたよ)。そこで、一般論としては経済的インセンティブはわかるのですが、個別具体例としてはたぶん経済的インセンティブだけで仕事はされてないんじゃないかと思いましたので質問しました。つくづく納得いたしました。そして、経済的インセンティブだけで仕事をされている人を一人もご存じでないという所が非常に興味深く、また了見をいたしました。今後ともの御成功をお祈りいたします。ではでは。

Posted by: ひさまつ | 2008.02.13 at 09:58 PM

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