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網野善彦『日本の歴史をよみなおす』(その2&終わり)

興味深い点の抜書き。

「松延さんの研究によって、非常におもしろい事実がわかってきました。(中略)物価が高くなるのが常識だと思うのですが、たしかに動産、米や絹の値段を見ますと、一時、13世紀の後半には高くなったようですが、14世紀にはいると、土地の値段をふくめて、むしろ安くなってくるという傾向が見られるのです。」(p.53)

「平安時代後期以降も、廃棄するはずだった文書の裏に日記や記録を書くことがさかんに行われています。紙は大事でしたから、捨ててしまうはずの文書を裏返して、そこに日記、記録を記す。」(p.264)

「この(将門・純友の乱という)大事件を境にして、この国家の租税制度や地方制度の実態は大きく変わってしまいます。(中略)国守、受領による租税の請負体制、それぞれの国の長官が国家に納めるべき一定額の租税の納入を自分の責任で請負う体制が、このころ軌道にのり、これまでの官僚制的な地方制度は、まったく実質がなくなります。」(p.306)

p.307は、流通経済の状況を短くまとめた優れた文章。

p.310は、金融業者のネットワークについての文章。

p.337-341は、請負代官について、新見荘を例にした具体的記述。特に、single bookingの会計があったことを記述。double bookingが必要となるためには貨幣以外の市場換金資産がより重要になることが必要だと思うが、そこのところもう一度復習。

「もちろん鎌倉と京都の間でも同様で、全国的に為替が用いられ、このような十貫文の額面の為替手形が有価証券のような形で流通していたと見てよいと思います(桜井英治「割符に関する考察」『史学雑誌』104編7号)。」(p.337-338)

「代官はこれ(相場)を十分に見定めて、できるだけ高いときに売却します。安いときに売ったり、高く売ったのを安いと報告したりすると、代官としての義務を怠ったことになり、あとで監査によって罷免されてしまうことになります。」(p.338)

「13世紀後半から14世紀にかけて、貨幣経済がさらに一段と発展してきますと、金融・商業の組織や、廻船のネットワークは、前よりもずっと規模が大きく、また濃密になってゆきます。供御人、神人、寄人の組織は、さらに広域的に広がり、緊密の度合も強くなって、公権力の枠をこえて独自な動きを強めていかざるをえなくなってきます。」(p.348)

「交通路の安全や手形の流通を保証する商人や金融業者のネットワークは、13世紀後半から14世紀にかけて、悪党・海賊によって保証されていたと考えられます。」(p.349)

ここはGreifの議論とも密接に関わるところ。悪党・海賊は全国組織ではなかったと考えられるので、やはり裏切りのインセンティブは存在する。そのほか、「契約」の語源は面白い。

「13世紀後半から14世紀にかけての、鎌倉幕府の悪党にたいするきびしい弾圧は、公権力からはずれた商人や流通・金融業者のネットワークをいかにしておさえつけるかにあったのですが、逆に、幕府の内部には、むしろこうした金融業者や商人の組織、流通の組織を積極的に支配のなかに取りこんでいこうとするもうひとつの政治路線がありました。」(p.351-352)

これが北条氏の得宗政治だったという。

「(得宗の家臣の)御内人は、金融業者の代官に所領の経営を請け負わせてしまいます。」(p.352)

「このようにして、北条氏は日本列島のなかの商人・金融業者のネットワークのほとんどを自分の統括下に入れ、さらに列島外との交易のネットワークも、統括下に入れて統制する方向で政治を進めていこうとしたのですが、やがてこの政治路線も、海上勢力の強烈な反発をうけることになります。」(p.353)

14世紀の熊野海賊の大反乱(p.353-4)。

14世紀の勧進上人による「唐船」の建造と中国貿易は、新大陸貿易と似ているが、なぜここでdouble book accountingがおきないのかというと、fiduciary roleではなく、棟別銭という寄付が資本金にあるからだろう。(p.360)

「15世紀前半に、朝鮮の使者として日本を訪れたソンギョヒンという人が『老松堂日本行録』(岩波文庫)という旅行記を書いています。」(p.367)

「東の海賊をひとり乗せておけば西の海賊はいっさい口を出さないし、西からの船は西の海賊をひとり乗せておけば、東の海賊は襲撃をしないというのです。」(p.367)

これは、おそらくtit-for-tatだろう。

「16世紀には、そうした海の慣習法の集成が行われます。「廻船大法」、あるいは「廻船式目」とよばれ、31ヶ条が基本で、江戸時代にも追加法が10何ヶ条加えられ、列島海辺の津々浦々で、書写され大切にされているのです。」(p.369)

参考文献として、「中世商人の世界」『列島の文化史』9、日本エディタースクール出版部、参照)があげられている(p.370)。

p.382以下の「飢饉はなぜおきたのか」は、前提としての米市場経済の重要性を指摘し、そのなかで「飯米購入農民」、すなわちnet-consumer farm(デュジャンブリーを見ること)を指摘し、そこで米価格が上がると飢饉が起こるとの指摘を行っている。AK Senの飢饉研究との関連を意識しよう。

「貧しいから飢えたわけでは決してありません。」(p.385)

アイルランドの飢饉や中国東北部の飢饉の例を見ると、こういう場合に、ジャガイモ(アイルランド)やヒエ・アワ(中国東北部)がギッフェン財になった可能性が指摘されている。すなわち、肉(アイルランド)や米(中国東北部)に比べて、それぞれの財は下級財であり、その所得効果が代替効果を上回るというケースである。

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Comments

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