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ロナルド・ドーア本、一読。

 ロナルド・ドーア本を一読した。興味深い点はいくつもあったが、そのうちの一つを長めに引用しておく。

 外部労働市場で安い労働力を調達して常時の人件費を節約し、それを調整可能なコストにするからこそ、中核社員を優遇できるともいえます。つまり、配分効率と生産性効率はトレード・オフ関係にあるのではなく、相互補完的関係にあるということになります。  以上の論法に沿って、アメリカの労働経済学者が、もっとも熱心に従業員を引き込み、また引き抜かれないための対策を講じる会社は、同時に非正規労働者を多く使うだろうという仮説を立てました。引き込み政策として、チームワーク、訓練のためのジョブ・ローテーション、相場より高い賃金、利益配分制度などをあげました。そして、非正規労働者比率のほかに、離入職率も計算しました。しかし、三者の間の相関関係をいろいろ調べてみても、仮説をはっきり裏付ける結果は出ませんでした。  つまり、中核従業員を大事に考え、なるべく逃さないようにする人事政策と、外部労働市場をフルに使おうとする人事政策は別なものなのです。いわば、両者は別な世界観に根を張っています。(pp. 98-99)

 おそらく、アメリカの経済学者が行なったという実証研究は、米国企業についてのものだと思うが、日本企業において行なったらどうであろうか。相関関係が出ないとすれば、極めて興味深い。元々のNBER working paperまで戻って検討する必要がある。このほか、例えば、労働者全て(ストック)を調べるのではなく、新規雇用者(フロー)だけ調べたらどうだろうか。

 もう一箇所、抜書きしておく。

 (19世紀イギリスの)中産階級の「公正さ」の概念をどう規定するかというと、フランス革命の有名なスローガン――自由、平等、博愛――を使った方が簡単かもしれません。fraterniteは日本ではふつう「博愛」と訳されていますが、共同体を想定する言葉であって、より正確に「兄弟的連帯意識」と訳すべきだと思います。ともかく、どうしてもトレード・オフ関係にある、「自由」対「平等」あるいは「兄弟的連帯」の間で、公正さを確保するには、バランスを後者の方に傾かせなければならない。そういう思潮を「金持ちの良心」と要約できます。(p.127)

 <「自由」対「平等」あるいは「兄弟的連帯」にはどうしてもトレード・オフ関係がある>という命題には必ずしも賛成しかねるが、そういう意見があることは承知できる。それよりも、fraterniteの意味と訳である。思えば、米国のエリート大学では学生の秘密クラブが存在し、それを総称してfraternityというのであるが、どうしても「博愛」という言葉と結びつかなかった。これが「兄弟的連帯」であればよくわかる。つまり、義兄弟制度なのだ。義兄弟には血を分けた本当の兄弟よりも強い絆がある場合がある。日本人のある世代に見られる、旧制高校に対する愛の大部分がfraternityに対する憧れであるともまとめることができるだろうか。関連した脱線であるが、政治家鳩山兄が提唱した「友愛」というスローガンもこの「兄弟的連帯」であり、当時の民主党のモメンタム(共同体的なものの打破)とは全く親近性がなかったことは明白であろう。

 もう一つ蛇足。発展途上国の工業化についての名著として末廣昭『キャッチアップ型工業化論―アジア経済の軌跡と展望』は素晴らしい教科書であるが、この本の労働市場から教育に繋がる部分は社会学のIndustrial Relationsから大きく影響を受けていることに改めて気がついた。自分へのメモでした。

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