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稲葉振一郎『経済学という教養』を斜め読む

 友人が読み出し、後で質問をするというので、多少の興味もあり、稲葉振一郎『経済学という教養』(東洋経済新報社)を斜め読んだ。元がメール・マガジンでの連載だったということだが、10年ぐらい前は、メルマガはなかったので、この手の本は、対談の起こしという形から出版されたものだったと思う。「この手」というのは、『切れ味の良い』(p.207)とか『ガードの甘さ』(p.244)という判断語句が頻出する本のことだ。これがまず第一印象。

 勉強になったことは、近代経済学に照らしたマル経の評価がわかりやすく書かれていることだ。また、小池や野村という労働関係の経済学者の出自もわかった。なお、私は小池さんを尊敬している。そして、「重商主義の貨幣的側面」(p.213)は、常々思っていたことなので、それほど目新しい概念ではないということもわかってよかった。やはり、小野善康の国際経済関係の文献は読んでおく必要があると思った。労働経済学のマクロとミクロの分化も明確に指摘した功績があるだろう。

 さて、この10年不況の効果は、新しい経済ジャーナリズムの書き手を生み出したことだろう。野口、若田部、竹森、等々とすぐ名前が挙がる。この著者も経済・経済学もわかる公共・思想・政治分野の新しい書き手として位置づけられるのだろう。

 あまり徹底していない実物ケインジアンとして位置づけられている野口・岩田は、この本にどのように反論するだろうか。第一点は、彼らが強調する経済学における短期・長期の概念設定か。第二には、長期の経済成長と、短期の経済安定化というマクロの中の区別か。第三には、貨幣数量説の改訂版か。いずれも、世界で共通の中級マクロのレベルであるだけに、「教養としての経済学」は中級マクロのエッセンスを含まないのかと疑問が残る。

 ドーアの所得政策(p.276)は、労働者が人口の全てではないということを考えると、マクロ・スコープの政策ではなく部門政策になってしまうということが留意点。また、企業単体で名目賃金を上げ、実質賃金を上げると、企業は雇用をカットするのではないかと思う(これが「実物ケインジアン」の論点だろう)。
 フリードマンによる「サマータイムと変動為替制度のアナロジー」は非常に強力な政策可能性のポイントで、ドーアの所得政策に対する、金融政策の役割もある程度そのアナロジーが妥当だと思われる。つまり、マクロ全体で所得を増やすという所得政策は何らかの貨幣的なものを配るということに他ならず、それは労働組合それぞれもしくは集合的に行うよりも、金融政策で一括的に行えばよいのだろう。

 米国経済史の最大の貢献の一つである「技術革新はどのくらいの時間的遅れを持って普及するか」が教養としての常識になっていない(p.127)ことが目を引いた。電気の事例は、現在のIT議論にそのまま応用されている。それは、経済史もしくは実証への軽視ではなかろうか。言い過ぎか。

 地方産業育成としての公共政策(p.263)は、picking the winnerができるのかという産業政策の重荷が検討事項となるだろう。

 パレート最適・「弱肉強食」・「共存共栄」についてはところどころ違和感があるが、私が厚生経済学に不得手なので宿題とする。

 この本を読んで「日銀理論」と「野口・岩田に代表されるオーソドックスなマクロ経済学」のどちらかに軍配を上げられるようにまで、観客の質が上がるのだろうか。そこは現況の肝心な点。著者は、それは野口・岩田がやっているからいいのだと言うかも知れないが、野口・岩田の基盤(=中級マクロ+デット・デフレーション)の中級マクロ部分を削除して、『理論的には実物的ケインジアンに見える野口・田中・岩田は、政策提言においてはむしろぼくの言う貨幣的ケインジアンの立場を取る』(p.88)と言ってしまうので応援になっていない。それは、観客の質が上がっていないことの例証ではないだろうか。折角、マクロの本なのにもったいない。

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